そこは薄暗く、人の気配が全くなかった。アッシュは歩みを進める。そして長い通路を抜けると、神々しいと形容できる空間へと出た。
「ようこそ『抗う者』よ、あたしの名前はガイア。人は大地神と呼んでるみたいだけどね」
その空間は神を祭る祭壇のように思え、その中心に彼女はいた。
「………ようやく会えたか。知ってると思うが、俺はアシュフォード・カーラル・アズウェルト。『空』の力を持つものだ」
「よく知ってるわ。あたしは君をずっと見てきた。君が今までどんな人生を送ってきたのかもね」
彼女――外見はまるで少女といっても差し障りのない姿をしている――が静かに答える。
「なら俺が何故ここに来たのかも解るな?」
「ええ、何故貴方達がその力を持っているのか? そして何故争わなければならないのか?………それについては幾ら謝っても足りないと思う。許してもらおうとも思わない」
ガイアは静かな瞳でアッシュを見つめる。
「教えてくれ!! 何故俺はティアリスと殺し合わなければいけないんだ!!」
アッシュはここにきて始めて声を荒げた。
「それは、ティアリスに聞いて。あたしはそんな事をさせたくて力を授けたわけじゃない。いや、力が宿った事自体あたしには予想外の出来事だったんだから」
アッシュとは違いガイアは静かな声を崩す事はない。
「じゃあ、何故?」
「それは、この星に君達の先祖が降りてきた事から始まる」
ガイアは淡々と語り始める。
「そんな………じゃあ、俺達は一体何の為にこんな戦いを繰り返してきたんだ!!………全く無意味じゃないか、シエルもアレクも、そしてアリシアだって何の為に命を落としていったんだ!! なあ、答えてくれよ!! あんた神なんだろ!?」
アッシュはガイアの話を聞き終わると、自分が今まで生きてきたこと自体否定されたような気分になってしまった。
「あたしは……神じゃない。あたしはこの星を護る為に生み出されたユニット『ガーディアン』……君達が神と呼ぶ存在はいやしない」
アッシュはやり場のない怒りを抱え、瞳には涙すら滲んでいた。
「君が、このくだらない輪廻の環を崩したいと願うならこれを受け入れてくれないか?」
ガイアはそう云うと、何処に持っていたのか手の平大の光の珠を出した。アッシュは顔を上げると、迷うことなくガイアの元へと歩き出す。
「これは、嘗て『空の神』と呼ばれ、そして『力の管理者』としてこの事態を引き起こした張本人の魂だ」
「それでも構わない。この下らない茶番を終わらせてくれるなら悪魔にでも魂をやるよ」
アッシュはそう云って光に手を伸ばした。