「しっかし、わかんねぇもんだな。てっきりチサトは、あそこで一生を過ごすもんだと思ってたよ」

「あたしだって年頃の女よ。街に憧れだってあるわ」

「よく云うぜ。やってる事は丸っきり、『年頃の女』には程遠いってのに」

 ウツロは町の巡回中に、偶然チサトに出会い、道の真中で話しこんでいた。

「でも、なんだってこっちに来たんだ?」

「学校よ、学校。お父さんの計らいで、こっちの学校に入学することになったの」

 チサトはウツロの顔色を伺うように云う。ウツロは、それに気付いた様子もない。

「学校ねぇ。確かチサトって向こうでも通ってなかったか?」

「村の学校じゃ、学べる事はたかが知れてるわ。どうせならこっちでしっかりと勉強したかったしね」

 チサトはウツロと目を合わせずにそう云った。

「ウツロ、そろそろ戻らないと隊長に怒られるわよ」

 ウツロの後ろに控えていたショートカットの少女―――カリンが声を掛ける。

「ああ、もうそんなになるか。チサト、悪いが行くぜ。まあ、お互いここにいればまた会えるだろ。じゃあな」

 ウツロはそう云うと、チサトの返事を待たずに人ごみの中へと消えて行く。その後にカリンもついて行くが、一度だけ僅かな時間、振り返りチサトを鋭い眼光で睨む。

「なによあの娘………………まさかあの娘もウツロの事………まさかね」

 チサトはカリンが見せた視線の真意を謀りかねていた。いや、解っているのに認めたくなかったのかもしれない。

 

 

 

 クルスは再び目を覚ました。窓から見える風景はすっかり暗くなっている。おそらくクルスがここに来てから―――少なくともクルスが一度目を覚ましてから丸一日たっているだろ。

「クルスさん、身体はどうですか?」

 フィリアは優しい笑みを浮かべながらクルスに聞いた。

「…………僕がここに来てから、どれ位たちました?」

「まだ二十四時間十三分五十六秒ですけど………それがどうかしました?」

「………フィリアさん、悪いんだけど僕の荷物は何処かな」

 クルスは体を起こしながら聞くと、フィリアは何も言わずにクルスの荷物を出す。クルスは、まさかこんなにあっさりと出してもらえるとは思っていなかったので、呆気に取られてしまった。

「そんなにあっさり出していいんですか?」

「あっさり出しちゃ拙かったんですか? じゃあこれは仕舞います」

 フィリアはそう云って、もとあった場所へと荷物を戻そうとする。

「ま、待ってください」

 クルスは慌てて止めると、フィリアはにっこり笑いながら荷物をクルスに手渡した。荷物と云っても大した物はなく、銃とガンホルダー、コート、後はクルスも見た事がない棒だけだ。

「この棒は?」

「貴方が持っていた物ですよ」

「僕が?」

―――もしかしてガーディスの部品を取ってきちゃったのかな?

 クルスはそれらを受け取るとベットから出る。やや体がふらつくものの、別に普通に動く分には支障がないだろう。

「じゃあ、シャリアさんとあの人によろしく伝えておいてください」

「…………それはいいんですが、ここが何処か解ってますか?」

「…………………すいません。ステーションまでの道を教えてもらえますか?

「いいですよ。でもそれよりも私が案内します。その方が早いですし」

 クルスはフィリアに申し訳なさそうに頼むと、フィリアは笑顔で答えた。

「でも、迷惑じゃ………」

「私が良いって云うんですから遠慮しないで下さい。それとも私の案内は嫌ですか?」

 今まで笑顔だったのが、急に悲しそうな表情になる。

―――なんかよく表情の変わる娘だな。人よりも人らしいな、この娘は。

「そう云うわけではないんですけど………」

 クルスはそう云ってフィリアの方へ歩み寄ろうとした途端、よろけてしまう。空かさずフィリアはクルスの前に周り体を支える。

「どっちにしろ一人じゃ無理みたいですね」

 フィリアは楽しそうに微笑みながら、クルスの腕を肩に回し歩き始めた。クルスはそれに引き摺られるように歩く。

 

 

「大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。それよりステーションはまだ遠いんですか?」

 フィリアはクルスの身体をを心配して声を掛けるが、クルスはそんな事より人の視線が気になった。

 あからさまに見ている人はいない。しかし、クルスは確かに視線を感じていた。

「如何したんですか? なんかさっきからソワソワしてますけど」

「誰かに見られてませんか?」

「え!? そ、そ、そんな事はないと思います」

 フィリアは明らかに動揺した声を出す。

「そこの路地に入ってもらえませんか?」

「危ないですよ。止めましょうよ」

「いや、このままの方が危ない」

 止めるフィリアをクルスは無視して、路地に入ろうとする。

「どうなっても知りませんよ」

 フィリアはクルスの云う通り、クルスを支えながら路地に入った。

 人気のない道を暫らく歩くと、数人の男が立ち塞がる。

「やっぱりか………」

 クルスはため息を付きながら呟く。

「クルセード・エルサレム様ですね」

 男は確かめるように云うと、クルスは仕方ないと云うような表情で頷いた。

「フィリアさん、少し下がってください」

「なんだ違う人だったんだ」

「何か云いましたか?」

 フィリアが小声で呟いたのを、クルスは聞き取れずに聞き返す。

「い、いえ。何でもないです。あ、私は後ろに下がるんですね」

 フィリアはあからさまに怪しい笑みを浮かべて、後ろに下がる。フィリアは動揺の余り、クルスの身体の調子が悪いのをすっかり忘れていた。

「さて、どうしますか? 僕を連れて帰りますか? それとも………」

 クルスがそう云うと、クルスを囲むように移動する。

「僕を殺しますか」

 クルスはやれやれといったように男達を見まわす。瞳がクルスの意思に呼応するように金と紫に変わる。

 クルスは懐に手を伸ばし、素早く銃を抜き、目の前の男へと躊躇なく撃った。

「先ず一人。遅くなったけど、この銃は普通とは違う弾が込められているから、防弾装備もサイバーウェアも意味がないよ」

 クルスが忠告しても男達は退く様子を見せない。仲間が撃たれた事すら気にしていないように見える。

「全く、仕事熱心な人達だな」

 男達のそんな様子にクルスは呆れながら云うと、再び男達に向かって引き金を引く。然し、男達はそれより早く動いた為、クルスの銃弾は地面を穿つ。

 一人はクルスの背後から迫り、もう一人は前から迫る。クルスの視界にはこの二人しか入らなかった。

 クルスは後方から来る男に右足を跳ね上げ、後ろ回し蹴りを放ち、その勢いを殺さない内に身体ごと回転させ、前の男に浴びせ蹴りをくらわす。

 クルスは力がなく身体も小柄な為、回し蹴りのように遠心力をつけたものか、体重を乗せた攻撃しか有効打にならない。然し、それは攻撃した後大きな隙ができる。

 浴びせ蹴りを食らった男が表情を変えずにクルスの足をガッチリと掴む。

―――手応えが硬い!! こいつBファミリアか!?

 Bファミリアとはバトルタイプファミリアを指していた。つまり戦う為だけの存在。

 男――Bファミリアはクルスの体を右腕一本で持ち上げ、思いっきり後方へと投げつけた。その先にはもう一人の男が左腕に電気を纏わせて待ち構えている。

―――スタンナックル!? ヤバイ、あんなの食らったら………

 

『風を蹴れ!!』
 

 クルスの頭に『声』が響いた。その『声』は聴いた事のあるような声でもあり、全く聞き覚えがない声のようでもあった。瞳が金、紫から蒼へと変化した。

 クルスはその声が響くと後は身体が勝手に反応し始める。

 何もない空間に手を付き、思いっきり空気を蹴り上げ、中空でバク転をし、待機していた男の背後へと降り立った。スタンナックルを持つ男は、いきなり目の前からクルスが消えた事が把握できず、そのまま止まってしまう。クルスはその隙を見逃さずに、ゼロ距離から引き金を引いた。

 クルスはそこまでの行動を咄嗟に行ったものの、何の躊躇いも無くすぐに思考を必要な事に向ける。

「後一人」

 クルスは口の中で呟くと男がどうなったかも確かめずに、最後の男―――Bファミリアへと向かう。

 クルスは立て続けに二発の弾丸を放つ。その二発の弾丸は、全く同じ軌跡を描きながらBファミリアの眉間へと吸い込まれていく。Bファミリアは顔を仰け反らせ、眉間のスキンコーティングを剥げさせただけでダメージらしいものはないようだ。

 然し、クルスは首を仰け反らせた一瞬の隙を逃さず、Bファミリアとの距離を詰める。そして、Bファミリアが体勢を立て直したときを見計らって眉間に三発目の弾丸をゼロ距離から撃ちこんだ。

(これで壊れなきゃもう手がないな)

 クルスは、最後の弾丸が狙い通り撃ちこまれたのを見て、緊張を解く。

「危ない!! クルスさん」

 緊張を解いたクルスに、影からフィリアの声がかかる。

 フィリアの声にクルスが反応できないでいるとBファミリアに腕を取られ、地に足がつかないように持ち上げられた。

「くっ!!」

 クルスは呻き声を上げ、身を捩るがその束縛から逃れる事が出来ない。

 Bファミリアは、あいているもうひとつの腕をクルスの首に伸ばし、徐々に力を込めていく。クルスは片手で必死にその手を外そうとするが、力の差がありすぎて抵抗らしい抵抗になっていない。

 そうしているうちにクルスの意識が薄れていく。

「ええ加減にしとけよ、自分」

 クルスとBファミリアの間に急に入ってきた影がそう云うと、Bファミリアの両腕を切り落とした。その腕に持ち上げられていたクルスは、急に支えが無くなった事で尻餅をつく。尤も、クルスは今まで供給されなかった分の酸素を得ようとする身体のせいで咳き込み、それどころでは無いようだ。

「ええ夢見ぃや」

 そう声を掛けると、Bファミリアを縦に一刀両断する。

「大丈夫か? まあ、助けに遅れたんは勘弁せぇ。勝手に出ていったお前が悪いんやからな」

 クルスはまだ咳き込んでいるが、刀魔をしっかりと睨んだ。その瞳はそれまでと違い、いつもの黒だった。

「………ずっと見ていたくせによく云いますね」

 クルスはようやく落ち着いたところでそう批難する。

「何や気付いとったんか」

「最初はあいつ等だけかとも思ったんですがね」

 クルスは喉を撫でながら調子を確かめる。

「周りに気配がなかったのに、急に近くに気配がしたんでもしかしてと思ったら、案の定だったようですね」

「何や、カマかけられたんか。まあ、別に見つかって困るような事はしてへんからエエけど」

「第一、フィリアさんがあっさり僕を外に出してくれたのは不自然過ぎですよ」

「ああ、それは別にワイやシャリアちゃんが云ったわけやないで。フィリアが勝手にやった事や。現にシャリアちゃんはおらへんやろ?」

「へ?………でもフィリアさんって確か、ファミリアですよね」

 クルスは刀魔が云った言葉が持つ意味を理解し、余りに常識外れな事に驚く。

「これがただのファミリアだと思うか?」

「刀魔さん『これ』って云うのは酷いです」

 フィリアが拗ねた表情で刀魔に抗議する。

 刀魔とフィリアのやり取りを見て、クルスはフィリアが人間じゃないかとさえ思い始めた。

「………確かにただのファミリアじゃありませんね。…………本当にファミリアなんですか?」

 クルスは思った事を口にしてみた。

「何云っとんねん。これがファミリアやなかったら何やねん」

「またこれって云った〜」

 フィリアから再び非難の声が上がる。

「少なくとも僕には『人』に見えますが………」

「じゃあ聞くが『人』って何や?」

「え?」

 刀魔の唐突な質問にクルスが戸惑う。

「そうですね。一言でいえば…………考える動物………ですか」

 クルスは刀魔の顔色を窺がう様にしながら答える。

「じゃあ、こいつは『人』やないな。動物やない、機械やからな。せやけど、考えることが出来る機械は『人』との違いがあるとは思えへんけど、どう思う?」

「確かにそうですね。もう一つの人類と云っても過言じゃないと思います」

「つうことは、こいつはお前の言葉で云うともう一つの人類なんや」

「ファミリアが………考える?」

 クルスは不思議そうにフィリアを見つめる。

「そうです。私はマスターの開発したThink−Systemのお陰で、他のファミリアにない思考能力があります」

「思考能力って…………何でそんな凄いものを開発しながら世に出さないんですか? それがあれば、まさしく『FAMILIAR』になるのに」

「だからや」

「え?」

 クルスは刀魔の返して来た言葉の意味を、把握出来ないでいる。

「今のファミリアの扱いを知らんとはいわへんやろな?」

「…………そう云うことですか」

 刀魔のその一言でクルスは刀魔の云わんとする事がわかった。

 今、ファミリアは貴重な労働源として存在している。それがもし、その事を疑問に思ったら人を殺す可能性だってある。それよりもクルスが思ったのは、それではファミリアが余りに可哀想になると云うことだった。

「あの人は凄い人なんですね」

 クルスはここにはいないシャリアを指してそう云った。

「まあ、凄いっちゅう言葉だけで片付けていいんかわからんけど、普通とはちゃうわな」

 クルスの言葉に刀魔がしみじみと答える。

「ほな、それがわかったとこでそろそろ帰ろか?」

「帰るって……何処へ?」

「決まっとるやないか、ワイらの家や。そないなとこに何時までも座っとらんではよ立て」

 クルスは顔を上げ、刀魔の顔をここで始めて見た。正確には瞳なのだが……

「貴方………その瞳は……」

「お、気付いたか。そう、ワイはお前と同じような力をもっとるんや」

 刀魔はそう云うと、髪で隠れている方の瞳も見せるように髪を掻き揚げる。そうすると刀魔の両目は淡い紫色の輝きを放っていた。そして右目には、額から右頬まである刀傷が存在している。それはけして醜悪なものではなく、むしろより刀魔の顔を精悍なものにしていた。

「ま、もっとも片方は義眼なんやけどな。お陰で力、つこうとらん時でもこの色になっとってな、前髪で隠してなあかんねん」

 刀魔は笑い話のように云うが、その過去は重く哀しいものである事は一目瞭然だ。

「そう云えばまだ、お名前を聞いていませんでしたね」

「そうやったか? 刀魔や、刀魔・村雨」

「刀魔・村雨…………まさかあの刀魔・村雨ですか!?」

 自分の知っているその名前の持ち主が、余りに凄い人物だったので、クルスは思わず驚きの声を上げた。

「まあ、多分その刀魔やとおもうで」

「『ムラクモの守護鬼神』、『剣の申し児』、『剣鬼』、後こんなのもありましたね。『その者に会いし者、刹那の後にある死を覚悟せよ、それがその者と会ったときに決められた運命なのだから』」

 クルスは刀魔と云う人物が持っている二つ名を、自分が知っているだけあげる。その声にクルスらしく無く、熱が篭っているのは仕方が無いだろう。目の前にいるのが間違い無く世界最強の男なのだから。

「そんな大したもんやないで」

 否定しない所をみると、どれも一度は呼ばれた事のあるものらしい。

「じゃあ、あれは本当なんですか? セレストの軍隊、十二個師団をたった一人で、一夜にして壊滅に追い込んだと云うのは……」

「まあ、あん時はムカツク事があってな。でも司令官を倒して百人ばっかし一瞬で切り伏せてやったら、後は蜘蛛の子を散らすように逃げってったで」

「じゃあ、本当の事なんですね」

 クルスは半信半疑だった事実が総て本当だった事に感動していた。

「刀魔さん、お願いがあります」

 クルスは今までとは打って変わって深刻な顔で刀魔の顔を見つめる。

「………何や? ワイに出来る事ならある程度は協力してやるで。でも金は無いから勘弁してぇな」

 クルスとは違い、刀魔は戯けた雰囲気を崩さない。

「僕を暫らくの間、貴方の下で鍛えてはもらえないでしょうか?」

「お前は何の為に、力を欲す?」

 刀魔はクルスの問いに問いで返した。

「………今は大切な人を守る為です」

 クルスは刀魔の意図は掴めないが、取り敢えず本音を話す。

「『力』とは『剣』であって、けして『盾』になることはないんやで? それでも力が欲しいんか?」

「力が盾にならないのなら、僕の身体を盾にします。それでも駄目ですか?」

 クルスと答えに、刀魔は暫らく考えるようにしている。

「ワイの使う『村雨神塵流』は、人に教えを与える際に必ず今の質問をするんや。でもお前みたいな答えは始めて聞いたわ」

 刀魔はそう云って笑い出した。

「………刀魔さんはその時、なんと答えたんですか?」

「ワイか? ワイは前半はお前と同じや。ただ後半の質問の答えは、『力が剣であって盾とならないなら、相手の剣が守るべき相手を傷つける前にその剣で切る』そう云うたんや」

「………何か失礼かもしれませんが、刀魔さんがそう云う事を云う人には見えませんね」

 クルスは正直な感想を漏らす。

「まあ、そん頃のワイは若かったからな。エクスなんてその質問をされたとき、メッチャオモロイ答え、云うたで」

「エクスは何て云ったんですか?」

「『力を手にするまで何に使うかなど解らん。力を身に付けてから考える』そう云うたんや」

「何かその質問は、意味が無いような気がしますね」

 フィリアが刀魔の言葉を聞いてポツリと呟く。

「そりゃそうや、質問自体に何の意味もあらへん。意味があるのはその質問に答えとる時の目や。そいつが嘘をついているような目をしとったら教えることはせぇへん」

「この質問は人間性を確かめるものでは無く。信頼性を確かめるものだったんですね」

 クルスは刀魔の言葉に納得がいったようだ。

「で、僕は教えてもらえるんでしょうか?」

「まあ、基本だけはな」

「基本だけなんですか?」

 クルスはやや不満そうに云う。

「ワイの流派は基本を教えてもろたら、後は自分で考えるんや」

「なんか無責任な流派ですね」

「本当の強さっちゅうのは自らで見つけ、身につけてこそ始めて意味があるもんや。ワイらのように生まれた時からこない人外の力持っとったら、いつか力に呑まれてまうで」

 刀魔は表情こそ動かなかったものの、その瞳には哀しみがはっきりと現れている。何故か刀魔が自分の過去の話を出すと、常に哀しみが纏わりついているのにクルスは気付いた。

「そうですね。この力を間違った方向に使わないように、心を鍛えないといけないですよね」

「そう云うこっちゃ。ほな、帰るか」

 刀魔はそう云って、クルスに背を向けて歩き出す。

「クルスさん、大丈夫ですか?」

「ええ、ただ身体が云うことを聞かないんで、肩を貸してもらえますか」

 クルスは申し訳無さそうにフィリアに云うと、フィリアがクスクスと笑い出した。

「なんか変な事云いましたか」

「はい、とても変な事を云いましたよ」

 フィリアはまだ笑うのを止めずに云う。

「ファミリアの私にそんな事を云うのは変です」

「そうですか? じゃあ、自分の力で歩きます」

「そうじゃないんですよ。ファミリアの私に、『肩を貸してもらえますか』なんて丁寧な云い方をする必要はありません。『肩を貸せ』と命令口調でも云いくらいです」

 フィリアはそう云ってクルスの肩を担ぎ、クルスを支えながら立ち上がった。

「僕には、貴方がファミリアだとは思えない」

 クルスはフィリアの顔を見ずにそう呟く。フィリアはそれを問い質す事はせずにただ黙々と歩いた。

 

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